村越正海さん

村越正海:日本を代表するプロフィッシャー。初めて沖縄のフィールドに足を踏み入れたのはもう四半世紀も前のこと。以来県内各地を釣り歩き、地元に溶け込んで未開ポイントを数多く拓いた。彼がキャストした跡には多くのファンが集い、新たな伝説が築かれていった。





沖縄の海に“越智べぇ”あり

村越正海   サザンフィッシングvol3より

3kg程度のキメジだが、オチベェがつかむとマサバの類いにしか見えない。

沖縄に“越智べぇ”という、古くからの釣友がいる。
推定体重140㎏の巨漢で、以前は“大漢越智”と呼ばれていた。見た目はごついが気は優しく、いたって穏やかな性格をしている。しかも、外見に似合わず意外なほど手先が器用。
例えば、かわいいイラストをすらすらと書いたり、釣具店のポップ(釣り具の使い方や釣り方の解説など、店内に張られた手書きの指南書のようなもの)をあっという間に仕上げたりもする。あるいは、市販の竿の穂先を削って調子を変えたり、ガイドを交換したりといった作業もお手のもの。
ぶっとい指先で、果たしてどうやったらそれほど細かい作業ができるものなのかと、不思議な気分にさせられることもしばしばだ。
でっかい体であるがゆえ、力持ちであることは間違いない。

初めて一緒に釣り船に乗り、ルアーフィッシングを行った際も、彼の釣りは豪快そのものだった。物干し竿のようなジギングロッド(これもまた、通常の強竿を更に硬く改造していた)を小脇に抱え、ライトタックルゲームを展開するがごとく、しゃかしゃかと、いともたやすくヘビーウェイトのメタルジグをしゃくり始めたのだった。
もちろん、大漢ゆえの弱点もある。パワーは強力なれど、持続力が乏しいこと。しゃかしゃか豪快にしゃくるものの、息が切れやすく、しばししゃくった後は決まって、ぜいぜいハァハァと両の肩を上下に波打たせるのだった。

釣れるわ釣れる「エビング」釣法。
エビングに踊りでたこの日唯一のカツオは良いサイズであった。

あるとき、早朝の堤防へ出かけ、数人でルアータックルを手にガーラを狙った。並んでキャストしていた越智べぇが一瞬「ウンッ」と短い声を発したのをぼくは聞きのがさなかった。ロッドに目をやると、物干し竿のようなGTロッド(これまた当然のごとく改造品)がほんの少したわんでいる。
何かが掛かっているのかどうかさえ、よほど注意深く観察しなければ分からない程度の曲がりである。しかし、ロッドを握る手に力が入っているのは間違いない。
期待しつつ注目していると、足元に引き寄せられたのは、GTならぬ、でっかいポリ袋。たっぷり水を含み、大きく膨らんでいる。

なぁーんだ、とがっかりしたが、続く光景にぼくは度肝を抜かれた。
足元に寄せた水のたっぷり入ったポリ袋を、エイヤーとばかり、岸壁上へ抜き上げてしまったのだ。いやはや、怪力とはまさにこのこと。こんなヤツらとパワー勝負などできるハズがない、とぼくはその時確信し、ならば技術を磨かねばならぬと自分自身に言い聞かせたのだった。

グルクンからパヤオまでこれ1本というハンドメイドロッドをおもちゃのように扱う。
その越智べぇと、今夏、何年ぶりかに会うことができた。
相変わらずの大漢ぶりで、ニヤリと見せる笑顔も、トーンの低いぼそぼそしゃべりも、数年前と全く変わらない。強いて言えば、以前に比べ言葉数が多少多くなっただろうか。
彼は現在、那覇沿岸漁港で釣り船の船頭さんをしている。
当然、船に乗せてもらい、一緒に釣りに出た。向かった先は、南西沖の水中パヤオ。
ぼく自身は、前回の訪沖で尋常でない釣れっぷりに衝撃を受けた「エビング」を、もう一度じっくり試してみたいと考えていた。

船頭になっていたオチベェ。
越智べぇと並んで「エビング」を開始すると、前回同様、釣れるわ釣れるわ、やはり釣れっぷりは尋常でない。ただし、肝心のヤマシタ製の「エビ」がすでに手に入りにくい状況で、しかも生産の予定もないとのこと。数尾釣ればボロボロになって使い物にならなくなってしまうため、沖縄中の在庫が底をつくのは目に見えている。
そこで、丈夫さでは定評のある、ダイワ精工㈱の「DRスティック」というソフトルアーを試してみて驚いた。
「代用品として何とか使える」というレベルではなく、越智べぇをして「明らかにこちらの方が良く釣れる」というほどの釣れっぷりだったのだ。
ともあれ「エビング」への興味はまだまだ尽きない。
釣りはエンドレスで、たどり着く先は近いようで遠い。
越智べぇとの付き合いも、エンドレスでありたいものだ。


村越正海オフィシャルサイト




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